今年6月から、計画相談支援・地域相談支援・障害児相談支援がはじめて「処遇改善加算」の対象になる。10年この現場にいて、ずっと「なぜ相談支援は対象外なんだ」と思ってきた。ようやく制度が追いついた。ただし加算を実際に取るには「キャリアパス要件」の整備が必要で、そこでつまずく事業所が出てくると俺は見ている。今日は改定の概要から要件の具体的な整備手順まで、一本で全部まとめる。
この記事の内容
1なぜ今まで相談支援は対象外だったか
処遇改善加算はもともと「直接介護を行う職員」の賃上げを目的に設計された制度だ。相談支援専門員は「調整・計画・モニタリング」が業務の中心とされ、ずっと制度の外に置かれてきた。
でも実態は違う。休日の緊急対応、複数機関をまたぐ調整、危機介入——相談員だって同じようにこなしている。処遇格差が人材流出につながるという声は現場で何年も上がっていたが、ようやく制度が動いた。
2令和8年6月改定の主なポイント
対象となるのは計画相談支援・地域相談支援(地域移行・地域定着)・障害児相談支援の3サービスだ。加算率は一律5.1%。さらに今回の改定では対象職種も福祉・介護職員から事業所で働く全職員へ拡大した。看護師・理学療法士・事務職員・運転手なども含まれる。チーム全体への処遇改善だ。
| 新たな加算率 | 施行日 | 対象職種 |
| 5.1% | 6月1日〜 | 全職員 |
| 3サービスに一律適用 | 令和8年(2026年) | 事務・運転手なども含む |
3特例措置の使い方と注意点
キャリアパス要件を今すぐ満たせない事業所でも、今年度中は「特例措置」を使って加算を算定スタートできる。
「令和8年度中に要件を整備します」と誓約すれば、整備前でも加算の算定が可能だ。ただし令和9年3月末までの整備完了と、年度終了後の実績報告書提出が条件になる。
特例措置チェックリスト
□ 体制届を自治体に提出する(新規算定は2026年4月1日が提出期限)
□ 処遇改善計画書で「年度内に整備する」旨を誓約する
□ 令和9年3月末までにキャリアパス要件の整備を完了させる
□ 年度終了後に実績報告書を提出する
4キャリアパス要件とは何か
キャリアパス要件とは一言で言えば「職員がステップアップしていける仕組みを書面で整えること」だ。Ⅰ〜Ⅲの3段階あり、どこまで満たすかによって算定できる加算区分が変わる。今回の相談支援向け新加算(5.1%)を取るには、最低でもⅠとⅡが必要だ。上位区分「加算Ⅰ・Ⅱ」を狙うならⅢまで整える必要がある。
5要件Ⅰ — 任用要件と賃金体系の整備
要件Ⅰは「職位・職責・賃金体系を文書で整え、全員に周知すること」だ。3つのステップで進める。
要件Ⅰ職位・賃金体系を文書化し全員に周知する
ステップ① 職位と任用要件を定める
「一般職員 → 主任 → 管理者」のように2段階以上の職位を設ける。各職位に何が求められるか(経験年数・資格・職務内容)を明文化する。現時点で該当者がいない職位でも、仕組みとして存在していればOKだ。
ステップ② 職位に応じた賃金体系を定める
各職位の給与の目安を文書化する。厳密な賃金規程でなくても、「この職位ならこの範囲」と説明できる状態であれば認められる。一時金など臨時的に支払われるものは含めなくていい。
ステップ③ 就業規則等に明記し全職員に周知する
常時雇用10人未満の事業所は就業規則の作成義務がないため、内規・キャリアパス規程などの書面でも可。口頭説明や「実態としてはやっている」は要件を満たさない。書面で残し、全員が閲覧できる状態にしておく。
よくある落とし穴
役職名が並んでいるだけの「等級表もどき」では弱い。どの職位にどんな役割があり、どの賃金につながるのかまで説明できる状態が求められる。採用時の要件・昇格の考え方・常勤と非常勤の取扱いが曖昧なまま提出すると、整備したつもりでも実地指導で指摘される。
6要件Ⅱ — 研修計画と能力評価の整備
要件Ⅱは「研修をやっている」だけでは足りない。職員と意見を交換しながら目標を立て、計画に落とし込み、実施して評価するという流れが見える形になっていることが求められる。
要件Ⅱ研修計画を策定し実施・評価して全員に周知する
以下のいずれか(または両方)を実施し、全職員に周知する。
a. 研修機会の提供+能力評価資質向上の計画に沿って、OJTや集合研修・外部研修などを実施し、職員の能力評価を行う。「計画→実施→評価→改善」のサイクルが書面で残っていることが重要だ。相談支援専門員研修・主任相談支援専門員研修・強度行動障害支援者養成研修など、事業特性に応じた専門研修と接続して計画を立てると整合性が取りやすい。
b. 資格取得支援研修受講のための勤務シフト調整・休暇付与・費用援助(交通費・受講料等)を実施する。「支援の仕組みがある」ことを就業規則等に明記し、全員に周知することが条件だ。
よくある落とし穴
場当たり的に年1回研修を開くだけでは弱い。「何を目標に・どの職員に・どんな機会を確保し・どう評価するか」が計画として見える形になっていることが条件だ。意見交換の記録や研修実施記録が薄いと実地指導で指摘されやすい。
7要件Ⅲ — 昇給の仕組みの整備(上位区分を狙う場合)
加算Ⅰ・Ⅱの上位区分を取りたい場合は、「昇給の仕組み」を制度として明文化することが必要になる。以下のいずれかを就業規則等に明記し、全員に周知する。
要件Ⅲ昇給の条件を制度として明文化する
a. 経験に応じて昇給する仕組み(勤続年数・経験年数に応じた昇給)
b. 資格等に応じて昇給する仕組み(相談支援専門員研修修了・主任相談支援専門員など資格取得に応じた昇給)
c. 一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組み(人事評価・実技試験等の結果に基づく昇給。客観的な評価基準が就業規則等に明文化されていることが必須)
8証拠の残し方 — 実地指導で困らないために
整備したことと同じくらい大事なのが、証拠の残し方だ。「やっている」という実態があっても、書面が残っていなければ要件を満たしていないとみなされる。
実地指導対策チェックリスト
□ 就業規則・内規の該当条文に付せんを付け、周知日・配布方法の控えを同じファイルにまとめる
□ 研修は「計画→実施→評価→改善」の流れで年度をまたいで同じ型で記録する
□ 昇給は「判定基準・判定時期・評価票・決定通知」のセットで保存する
□ キャリアパス整備費・研修費は賃金改善額と区別して管理する(混在すると返還指摘の対象になる)
□ 職員への周知は書面配布か閲覧記録を残す(口頭周知だけはNG)
当事者として、現場から一言
俺は精神障害の当事者として支援を受けながら、相談支援専門員として働いてきた。キャリアパス要件の整備を「面倒な書類仕事」と感じる気持ちはわかる。でも裏を返せば、これは「あなたのキャリアを組織が守ります」という約束を制度化する作業だ。処遇改善は単なる賃金の話じゃない。支援の持続可能性に直結する。整備することで職員が将来を描きやすくなるなら、その意味は小さくない。制度を正しく理解して活用することが、現場の声を届ける一番の方法だと俺は思っている。
わからないことがあればコメントで聞いてくれ。

